宇宙船地球号に乗った私たち
二次世界大戦中,29 頭のトナカイがアメリカ本土から遠く離れたセント・マシュウー島に連れて来られました。終戦後,トナカイたちは島に取り残されましたが,外敵に襲われることなく,夏場は生い茂った草を食べ,冬場は豊富な苔をエサとしてのびのびと暮らしていました。トナカイは,13 年後には 1350 頭に増え,19 年後には 6000 頭にまで増えました。 しかし,それから 3 年後,トナカイの数は 42 頭に激変し,ほどなくして絶滅してしまいました。理由は,苔の生育がきわめてゆっくりだったため,急激に増えたトナカイの食料が追いつかなかったからです。島には,トナカイ 6000頭をまかなえるだけの環境容量(carrying capacity)がなかったのです。現代の私たちの生活に欠かせない石油,石炭,天然ガスなどの化石燃料は,動物の死骸や枯れた植物などが地中に堆積して,何億年もの時間をかけて有機物として変成した有限なエネルギー資源です。もし,トナカイが様々な動植物が飛来する大陸に近い島で暮らしていたら,絶滅することはなかったかもしれません。しかし,閉鎖的な島の中で,一旦循環システムが崩れてしまうと,それを回復させられないまま急激な環境の変化が起こってしまいます。地球という閉鎖的な空間の中で暮らす私たちが,急激な環境の変化を防ぎ,次の世代の子どもたちへ命を繋いでいくためにはどうすれば良いのでしょうか。私たちは,途中下車のできない宇宙船地球号の乗組員なのです。(竹下浩子 2018)